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小説「無人島レストラン(中編)」

小説「無人島レストラン(中編)」

高岡の地元から船で1時間、二人は”神隠しの島”と呼ばれている無人島へと到着した。

時刻は深夜3時。周りは常闇に包まれている。

さすがに無人島と呼ばれるだけあって、人の気配は微塵も感じない。

先の見えない深い森が二人を出迎える。生い茂る木々達が不気味な表情を覗かせる。

思ったよりも島の面積は広い。1周するだけでも、数日はかかりそうだ。

「よし、二手に分かれよう」

そう言い出したのは高岡だった。

「二手に分かれるって、何かあったらどうするんだよ。この森じゃ携帯も使えないだろ」

「大丈夫だよ。”無人島”なんだからさ。なにも起こらないよ。それに、二手に分かれた方が効率いいじゃん?」

「まぁたしかにな」

「じゃあ、そういうことで。朝になったらここで落ち合おうぜ」

「おう。気をつけろよ」

「お前もな」

高岡と分かれた山本は、森の奥深くへと入り込んでいく。時折、カラスの鳴き声が聞こえる。

どこまで歩いても、同じような道が続くばかり。徐々に体力と気力は失われていく。

もう自分がどこを歩いているのかさえ見失いつつあった。

「この森、思っていた以上に深いな・・・」

山本は力無く呟(つぶや)いた。

季節は夏。その日の夜は蒸し暑く、無性に喉が渇いた。当然持ってきた飲料水に、手が伸びる回数も増えていく。

「やっべ!もう水ほとんどないじゃん!ここらへんで水補給できるとことか・・・ないよなぁ」

山本が途方に暮れていると、どこからか美味しそうな匂いが漂(ただよ)ってくる。

「なんだ?この匂いは。まさか、人がいるのか!?」

希望を胸に、山本は匂いのする方へと向かった。

しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。そこには1軒の小さなレストランが建っていた。

「こんなところにレストラン!?無人島じゃなかったのか、ここは!」

レストランの方へと駆け寄り、山本はレストランをまじまじと見つめる。つくりは古いが、どこからどう見てもレストランだ。

「俺はキツネかタヌキに化かされているのか?」

山本は驚きの表情を隠せずにいた。しかし、それと同時に”人がいる”という安心感も芽生えていた。

「とにかく中に入ってみるか。人がいるかもしれない」

意を決して中へと踏み込んだ。扉が不気味な音をたてて開く。

中は薄暗く、店の中央にテーブルと椅子が1つずつあるだけ。実に殺風景な内装だ。

そのさらに奥には、厨房へと続いているであろう通路もある。

「すみませ~ん。どなたかいらっしゃいませんかぁ~?」

返事は返ってこない。相変わらず、人の気配も微塵も感じない。

「いるわけないよな。それに、こんなところで店が成り立つわけないし」

山本が店を後にしようと背中を向けた、その時だった。

「いらっしゃいませ」

山本の背後から男の図太い声が聞こえた。

驚いて山本が振り返ると、そこには薄汚れた黒いタキシードを着た40代半ばくらいの男性が立っていた。

髪は少しボサボサで、目も少し虚(うつ)ろだ。

山本は直感的に”ヤバイ!”と思った。しかし、恐怖で体が言うことを聞かない。

「お一人様でいらっしゃいますか?」

唐突にその男は、山本に尋ねた。

「はい」

山本は震える声で答えた。

男は山本を、虚ろなその目で、舐めまわすように見つめる。

「では席へご案内致します。こちらへどうぞ。申し遅れました。私、神部と申します。以後、お見知りおきを」

神部と名乗ったその男は、山本を店の中央にある席へと案内した。相変わらず照明は薄暗いままだ。

しばらくすると、神部が山本の席に1杯の水を持ってきた。

「今夜は蒸し暑いですからねぇ。喉が渇いたでしょう。どうぞ、お飲みになってください。すぐに料理をご用意致しますので」

「料理?そんなもの注文してませんけど」

「料理は私からの気持ちです。お腹、空いてませんか?」

たしかにお腹は減っていた。喉も渇いていた。

しかしそれ以上に、この神部という男性に対しての恐怖心があった。

「そんな!悪いです。それに、あまりお腹減ってませんから」

そう言い終わるか、終わらないかのタイミングで、山本のお腹の虫が店内に鳴り響く。

その後、少しの間、静寂に包まれた。

「すぐにお持ち致します。少々お待ちくださいませ」

そう言うと神部は深々と頭を下げ、奥の厨房へと消えていった。

しばらくすると、神部がフォークとナイフを片手に戻ってきた。

山本のテーブルにフォークとナイフが並べられる。どうやら料理というのはステーキのようだ。

「肉の焼き方はどうなさいますか?」

「じゃあ、ミディアムレアで」

「かしこまりました」

そう言うと、神部はまた厨房へと消えていった。

厨房からは肉の焼ける心地いい音が微(かす)かに聞こえる。美味しそうな匂いも漂ってきた。

「大変お待たせ致しました」

神部がステーキ皿に乗せられた、分厚いステーキを持って戻ってきた。ステーキからは肉汁がこぼれている。

山本は思わず唾(つば)を飲み込んだ。

「どうぞ召し上がってください」

「ほ、本当に食べていいんですか!?お金持ってないんですよ?」

「最初に申しましたように、この料理は私からの気持ちですから。代金は結構でございます」

「じゃあ折角なんで・・・いただきます!」

その肉は柔らかく、肉厚で、噛むほどに肉汁が肉から溢(あふ)れ出た。

味は牛とも、豚とも、違う味がした。しかし、その味はまさに美味の一言。

「神部さん、このステーキめちゃくちゃ美味しいです!ところで、これは何の肉ですか?」

山本が神部にそう尋ねると、神部はニヤっと薄ら笑みを浮かべた。

「高岡さん、お元気ですか?」

不意に神部が、山本に尋ねた。

「えぇ、元気だと思いますよ。この島へも一緒に来たんです」

神部の問いに対して、不思議に思いながらも、山本は答えた。

「ところで神部さん、どうして高岡の事をご存知なんですか?」

「肉」

「えっ?」

「肉、美味しかったですか?」

「あっ、はい。とても美味しかったです」

「そうですか。美味しかったですか」

そう言うと、神部は狂ったように笑い始めた。山本は唖然(あぜん)としている。

「高岡さんも、山本さんに美味しく食べてもらえて、さぞお喜びでしょうね」

山本は、神部が言っている言葉の意味が理解できずにいた。

「どういう・・・意味ですか?」

「まだお分かりになりませんか?あなたが今食べた、そのステーキ!それはあなたのご友人、高岡さんの・・・人間の肉なんですよ!!」

「そんな馬鹿な!!そんな事・・ありえない!」

「そうそう、これはお返ししときますよ。高岡さんのお荷物です」

山本の目の前に放り出されたそれは、血で真っ赤に染まってはいるが、間違い無く高岡の荷物だった。

「そんな・・・まさか・・・!」

「調理の際、暴れて大変だったんですよ。まぁすぐに大人しくさせましたけどね」

「うっ・・・!!」

山本は猛烈な吐き気に襲われた。それと同時に、恐怖心が蘇った。

「折角食べたのに吐いちゃうなんて勿体無(もったいな)いことをしますねぇ。ククク・・・」

「逃げなきゃ!」山本は本能的にそう思った。逃げなければ、次は自分が殺される。

山本の額に汗が滲(にじ)む。その汗が暑さからなのか、それとも恐怖からなのかは分からない。

山本は恐怖でただただ、動けずにいた。神部はその山本の姿を見て、ただ薄っすらと笑っていた。


~後編へ続く~
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~ Comment ~

こんにちは!

なまら怖いですね(>_<)
続きが楽しみです!

最後まで読んでくださった方々へ

最後まで読んでくださった方々、読んでくださってありがとうございます!
ご感想などございましたら、コメント欄に書き込んでいってください。

今回の作品の執筆にかかった時間は「3時間20分」と、過去最高記録となりました。

会話の部分や、それ以外の部分は、その場で即興で考えました。
ストーリーの流れは予め決めてました。

下書きなどはしておらず、1発本番です。

自分としては結構頑張って書いたつもりですが、まだまだ素人。これからも頑張って小説を書き続けます。

後編は来週公開予定です。
お楽しみに!

小次太郎さんへ

いつもご訪問、そしてコメントありがとうございます!
感謝しております。



> なまら怖いですね(>_<)
> 続きが楽しみです!


ちょっと展開がエグすぎるかなぁとも思いましたが、そのままの勢いに任せて突っ走りました。
後編では山本の逃亡劇を描く予定です。

次で完結する予定ですので、お楽しみに。

好きなテイストです★

いい感じですね(*≧艸≦)
想像もしていなかった展開やったので嬉しくなりました(笑)

まさかのサイコサスペンス(-ω-人)
後半また読みに参ります♪

堕璃さんへ

ご感想ありがとうございます!



> いい感じですね(*≧艸≦)
> 想像もしていなかった展開やったので嬉しくなりました(笑)
>
> まさかのサイコサスペンス(-ω-人)
> 後半また読みに参ります♪



今回の作品は、結構時間かかっちゃいました。

最初は、ここまで大作になろうとは、予想していなかったです。

なるべくグロい表現は避けたつもりですが、内容としては結構エグい部類に入っちゃうかもしれませんね。
見る人によっては、気分を害してしまう方もいるんじゃないか。と少し心配もしています。

ちなみに、私はグロいのとか、そういうのは全然平気です。
後編もお楽しみに。

NoTitle

うわあああああ無人島にレストランなんて入ったらやばいに決まってるじゃないか馬鹿ああああ:(;゙゚'ω゚'):
と、思いっきり感情移入しながら読んでいました///

それにしても神部さんが怖い;;

後編楽しみです゚(゚´Д`゚)゚!!

真侑さんへ

真侑さん、ご訪問&コメント誠にありがとうございます!



> うわあああああ無人島にレストランなんて入ったらやばいに決まってるじゃないか馬鹿ああああ:(;゙゚'ω゚'):
> と、思いっきり感情移入しながら読んでいました///
>


たしかに、実際に無人島に行って、もしレストランなんかが不自然にあったりしたら、私だったら100%入りませんね(笑)
怪しすぎでしょ(´・ω・`)
入った瞬間、死亡フラグが立ちそうで(笑)


> それにしても神部さんが怖い;;
>
> 後編楽しみです゚(゚´Д`゚)゚!!


ありがとうございます!

後編では神部さんと山本氏の壮絶な死の鬼ごっこが始まります。
捕まったら最後!山本氏は殺されます。

果たして山本氏は逃げ切れるのか!?
乞うご期待!!

おわ~

神部さんの怪しくも紳士なきゃらって好きなんですけど、…おっそろしいww
なんとなく展開が読めちゃって、とまらなくなりました(笑)
実は夢オチで高岡くん生還…なんてことは!ないですかね~(^^;)

NoTitle

無人島でサイコさんと鬼ごっこ…!
ワクワクしてきた\(^o^)/

ジーノさん、かっぽさんへ

ジーノさん、かっぽさんコメント誠にありがとうございます!



>>>ジーノさんへ
あまり言っちゃうとネタバレになるので言えませんが、高岡くんは恐らく戻ってきません。

でも最後は意外な結末になると思いますよ。



>>>かっぽさんへ
次で完結予定です。
神部さんと山本さんの鬼ごっこの結末を是非とも見届けてやってください。

ていうか、神部さんが不気味すぎたw
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