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Date:2012.02/07 [Tue]21:20 | Category:[小説]
小説「おばあさんの温もり(後編)」
遠くの方で救急車のサイレンが聞こえ始めた。
どんどんこちらへ近づいているようだ。
しばらくすると救急車が到着し、救急隊員達が慌しく動き始める。
川口は今だに目の前で起きている出来事が現実だとは思えずにいた。
何かの拍子で目が覚めてまたいつもと何ら変わりのない日々が始まるのではないか。そう思わずにはいられなかった。
でも目の前では現実におばあさんが倒れ、そしてストレッチャーで救急車の中へと運び込まれようとしていた。
川口にとって認めたくない現実が今まさに目の前にあったのだ。
そして救急車におばあさんが運び込まれた瞬間、川口はふと我に返り救急車の中へと慌てて飛び乗って同乗していた。
救急車はサイレンを響かせながら病院へと急いだ。
救急車の中では救急隊員がおばあさんに懸命に処置を施している。
川口はただひたすらにおばあさんの手を握っていた。
おばあさんの手はまだ暖かかった。
何か言わなきゃ。川口はそう思った。
「おばあちゃん!おばあちゃん!!」
川口はそのおばあさんの名前すら知らなかった。
そして目の前でおばあさんが倒れているのに自分は何ひとつとしておばあさんを助けてあげることができない。
その苦しみから、暗闇から救ってあげることができない。
ただこうやってひたすらに手を握って祈ることしかできない自分を川口は情けなく思った。
救急車のサイレンが止んだ。病院に到着したようだ。
おばあさんはすぐに手術室へと運び込まれていった。
川口はただ待つことしかできなかった。
あれからどれくらいの時間が過ぎただろうか。
看護師が忙しく手術室を出入りしている。
手術中のランプはまだ消えない。
手術室の中から一人の看護師が出てきた。川口の方へと歩み寄る。
「ご家族の方ですか?」
川口は返答に困った。
川口はおばあさんが旦那さんに先立たれ、息子も都会で一人暮らしをしていて一人身だという事を前におばあさんから聞いていて知っていたのだ。
しばらくの沈黙の後、川口は口を開いた。
「・・・はい。祖母は大丈夫なのでしょうか?」
「非常に危険な状態です。一応の覚悟はしておいてください」
川口の頭の中に死という文字が過ぎった。
そして色んなことを考えた。
あの時万引き犯を捕まえようとしなければ。あの時一人で行かずに近くの誰かを呼んでいれば。
後悔の念だけが消えずにいた。
全ては結果論。でも川口は考えずにはいられなかった。
そしてまた時が過ぎ、やっと手術中のランプが消えた。
中から医師と看護師達が出てくる。
医師がマスクを外しておもむろに口を開いた。
「できる限りの事はしました。でもまだ油断できない状態です。詳しい事をご説明しますのでこちらへどうぞ」
そう言うと医師は川口を診察室へと誘導した。
そして診察室に着くや否や医師は川口にむかって淡々と説明を始めた。
色んな専門用語や難しい言葉が出てきて川口はいまいち理解できずにいた。
もっとしっかり勉強しておけば良かった。と今更ながら川口は後悔した。
でもおばあさんが危険な状態だということは理解していた。
そして看護師におばあさんの病室を教えてもらって川口は足早におばあさんがいるであろう病室へと急いだ。
病室の前まで辿り着くと川口は深呼吸をしてから静かに病室の扉をそっと開けた。
おばあさんがベッドメイキングされたベッドの上で静かに呼吸している。
口には酸素マスクがされていた。
ベッドの横では心電図がおばあさんが生きていることを知らせてくれている。
川口はおばあさんの手をそっと握った。
おばあさんの手はまだほのかにその温もりを保っていた。
川口はおばあさんの手の温もりを感じると少し安堵した。
すると今までの色んな疲れからか、川口は急に強い眠気に襲われた。
少しだけ寝よう。そう自分に言い聞かすように呟くと川口は眠りについた。
その時川口は不思議な夢を見た。
店で川口は品出しをしている。
そして入口の方からおばあさんが乳母車を押しながらやってくる。
「にぃちゃんおはよう」
「いらっしゃいませ!おはようございます」
それはいつもと何ら変わらない光景だった。
おばあさんは川口のそばまで来ると川口の目の前で立ち止まった。
「にぃちゃんありがとうな」
そう言うとおばあさんはニッコリと川口の方を見て笑った。
川口の目からは自然と一筋の涙が頬をつたってこぼれ落ちた。
そこで川口は目が覚めた。なにやら周りが騒がしい。
「先生を直ぐに呼んできて!早く!!」
「はい!」
看護師達が慌しく動いている。
ふとおばあさんの方を見てみると心電図の針が振れていない。
看護師が懸命に心臓マッサージをしている。
「俺はまだ夢を見ているのか?そうだこれは夢だ。夢の続きなんだ」
そう川口は自分に言い聞かせるように呟いた。
相変わらず看護師が心臓マッサージを続けている。
川口はどうしようもない悲しみと焦りが込み上げてきた。
「おばあちゃん!しっかりしてよおばあちゃん!!目を開けてよ!!」
「落ち着いてください!ちょっと誰か!!」
川口は数人の看護師に制止されながら目からは大粒の涙をこぼしていた。
しばらくしてから医師がやってきて看護師と共に蘇生処置を施し始めた。
川口はただ見ているしかなかった。無力な自分を川口は恨んだ。
医師から川口が一番聞きたくなかった言葉が告げられる。
「午後9時46分ご臨終です」
認めたくなかった。信じたくなかった。
川口はおばあさんの方へと力の無い足取りで歩み寄る。
そしてぎゅっとおばあさんの手を握った。
「先生もっとちゃんと診てくださいよ。おばあちゃんはまだ生きています!だってほら!こんなにもまだ手が暖かいじゃないですか!!」
医師は無言で川口を見つめている。川口の目からはとめどなく涙があふれ出ている。
「私どもの力が及ばず申し訳ございません」
医師と看護師は深々と頭を下げた。
川口はただひたすらにただただ泣き続けるしかなかった。
おばあさんの手はまだほのかに温かみを帯びていた。
あの少年達が逮捕されたという話を川口が聞いたのはおばあさんが亡くなってから三ヵ月後のことだった。
そんなある日、店で川口が品出しをしていると見知らぬ男性が声をかけてきた。
「川口さん・・・ですよね?」
「えぇそうですが」
「母が大変お世話になりました。川口さんの事は母からいつも伺っておりました」
それはあの乳母車のおばあさんの息子だった。
「母の遺品を整理していたらこんな手紙が出てきまして」
そう言うと息子は川口に手紙を出して見せた。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
川口は茶封筒の中から手紙を取り出し読み始めた。
そこには震えた文字でこう書かれていた。
「にぃちゃんいつも優しくしてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」
そして茶封筒の中から1つのチロルチョコが出てきた。
奇(く)しくもその日はバレンタインデーだった。
川口はその場で泣き崩れ、いつまでもその小さなチョコを握り締めていた。
そしてそれから一年の歳月が流れた。
川口も正社員になっていた。
ある日の昼下がり、川口は同僚と昼飯を食べている。
「お前さいつもそのチロルチョコ持ってるけど食わんの?」
「これお守りやねん」
「チロルチョコがお守り?訳分からんな」
季節は冬。
この日の風もひんやりと冷たかった。
~完~
どんどんこちらへ近づいているようだ。
しばらくすると救急車が到着し、救急隊員達が慌しく動き始める。
川口は今だに目の前で起きている出来事が現実だとは思えずにいた。
何かの拍子で目が覚めてまたいつもと何ら変わりのない日々が始まるのではないか。そう思わずにはいられなかった。
でも目の前では現実におばあさんが倒れ、そしてストレッチャーで救急車の中へと運び込まれようとしていた。
川口にとって認めたくない現実が今まさに目の前にあったのだ。
そして救急車におばあさんが運び込まれた瞬間、川口はふと我に返り救急車の中へと慌てて飛び乗って同乗していた。
救急車はサイレンを響かせながら病院へと急いだ。
救急車の中では救急隊員がおばあさんに懸命に処置を施している。
川口はただひたすらにおばあさんの手を握っていた。
おばあさんの手はまだ暖かかった。
何か言わなきゃ。川口はそう思った。
「おばあちゃん!おばあちゃん!!」
川口はそのおばあさんの名前すら知らなかった。
そして目の前でおばあさんが倒れているのに自分は何ひとつとしておばあさんを助けてあげることができない。
その苦しみから、暗闇から救ってあげることができない。
ただこうやってひたすらに手を握って祈ることしかできない自分を川口は情けなく思った。
救急車のサイレンが止んだ。病院に到着したようだ。
おばあさんはすぐに手術室へと運び込まれていった。
川口はただ待つことしかできなかった。
あれからどれくらいの時間が過ぎただろうか。
看護師が忙しく手術室を出入りしている。
手術中のランプはまだ消えない。
手術室の中から一人の看護師が出てきた。川口の方へと歩み寄る。
「ご家族の方ですか?」
川口は返答に困った。
川口はおばあさんが旦那さんに先立たれ、息子も都会で一人暮らしをしていて一人身だという事を前におばあさんから聞いていて知っていたのだ。
しばらくの沈黙の後、川口は口を開いた。
「・・・はい。祖母は大丈夫なのでしょうか?」
「非常に危険な状態です。一応の覚悟はしておいてください」
川口の頭の中に死という文字が過ぎった。
そして色んなことを考えた。
あの時万引き犯を捕まえようとしなければ。あの時一人で行かずに近くの誰かを呼んでいれば。
後悔の念だけが消えずにいた。
全ては結果論。でも川口は考えずにはいられなかった。
そしてまた時が過ぎ、やっと手術中のランプが消えた。
中から医師と看護師達が出てくる。
医師がマスクを外しておもむろに口を開いた。
「できる限りの事はしました。でもまだ油断できない状態です。詳しい事をご説明しますのでこちらへどうぞ」
そう言うと医師は川口を診察室へと誘導した。
そして診察室に着くや否や医師は川口にむかって淡々と説明を始めた。
色んな専門用語や難しい言葉が出てきて川口はいまいち理解できずにいた。
もっとしっかり勉強しておけば良かった。と今更ながら川口は後悔した。
でもおばあさんが危険な状態だということは理解していた。
そして看護師におばあさんの病室を教えてもらって川口は足早におばあさんがいるであろう病室へと急いだ。
病室の前まで辿り着くと川口は深呼吸をしてから静かに病室の扉をそっと開けた。
おばあさんがベッドメイキングされたベッドの上で静かに呼吸している。
口には酸素マスクがされていた。
ベッドの横では心電図がおばあさんが生きていることを知らせてくれている。
川口はおばあさんの手をそっと握った。
おばあさんの手はまだほのかにその温もりを保っていた。
川口はおばあさんの手の温もりを感じると少し安堵した。
すると今までの色んな疲れからか、川口は急に強い眠気に襲われた。
少しだけ寝よう。そう自分に言い聞かすように呟くと川口は眠りについた。
その時川口は不思議な夢を見た。
店で川口は品出しをしている。
そして入口の方からおばあさんが乳母車を押しながらやってくる。
「にぃちゃんおはよう」
「いらっしゃいませ!おはようございます」
それはいつもと何ら変わらない光景だった。
おばあさんは川口のそばまで来ると川口の目の前で立ち止まった。
「にぃちゃんありがとうな」
そう言うとおばあさんはニッコリと川口の方を見て笑った。
川口の目からは自然と一筋の涙が頬をつたってこぼれ落ちた。
そこで川口は目が覚めた。なにやら周りが騒がしい。
「先生を直ぐに呼んできて!早く!!」
「はい!」
看護師達が慌しく動いている。
ふとおばあさんの方を見てみると心電図の針が振れていない。
看護師が懸命に心臓マッサージをしている。
「俺はまだ夢を見ているのか?そうだこれは夢だ。夢の続きなんだ」
そう川口は自分に言い聞かせるように呟いた。
相変わらず看護師が心臓マッサージを続けている。
川口はどうしようもない悲しみと焦りが込み上げてきた。
「おばあちゃん!しっかりしてよおばあちゃん!!目を開けてよ!!」
「落ち着いてください!ちょっと誰か!!」
川口は数人の看護師に制止されながら目からは大粒の涙をこぼしていた。
しばらくしてから医師がやってきて看護師と共に蘇生処置を施し始めた。
川口はただ見ているしかなかった。無力な自分を川口は恨んだ。
医師から川口が一番聞きたくなかった言葉が告げられる。
「午後9時46分ご臨終です」
認めたくなかった。信じたくなかった。
川口はおばあさんの方へと力の無い足取りで歩み寄る。
そしてぎゅっとおばあさんの手を握った。
「先生もっとちゃんと診てくださいよ。おばあちゃんはまだ生きています!だってほら!こんなにもまだ手が暖かいじゃないですか!!」
医師は無言で川口を見つめている。川口の目からはとめどなく涙があふれ出ている。
「私どもの力が及ばず申し訳ございません」
医師と看護師は深々と頭を下げた。
川口はただひたすらにただただ泣き続けるしかなかった。
おばあさんの手はまだほのかに温かみを帯びていた。
あの少年達が逮捕されたという話を川口が聞いたのはおばあさんが亡くなってから三ヵ月後のことだった。
そんなある日、店で川口が品出しをしていると見知らぬ男性が声をかけてきた。
「川口さん・・・ですよね?」
「えぇそうですが」
「母が大変お世話になりました。川口さんの事は母からいつも伺っておりました」
それはあの乳母車のおばあさんの息子だった。
「母の遺品を整理していたらこんな手紙が出てきまして」
そう言うと息子は川口に手紙を出して見せた。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
川口は茶封筒の中から手紙を取り出し読み始めた。
そこには震えた文字でこう書かれていた。
「にぃちゃんいつも優しくしてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」
そして茶封筒の中から1つのチロルチョコが出てきた。
奇(く)しくもその日はバレンタインデーだった。
川口はその場で泣き崩れ、いつまでもその小さなチョコを握り締めていた。
そしてそれから一年の歳月が流れた。
川口も正社員になっていた。
ある日の昼下がり、川口は同僚と昼飯を食べている。
「お前さいつもそのチロルチョコ持ってるけど食わんの?」
「これお守りやねん」
「チロルチョコがお守り?訳分からんな」
季節は冬。
この日の風もひんやりと冷たかった。
~完~











NoTitle
まってました~^^
感動もしますし、悲しいお話ですね
ところで、なんでこの小説の題名をおばあさんの温もりと言う題名にしたんですか?