

小説「無人島レストラン(前編)」
「暇だなぁ」そう言うと、高岡は大きな欠伸を漏らした。「夏休みで大学も休みだしな」山本がめんどくさそうに答える。「折角の夏休みだしさ、二人でどこか行かねぇ?」「”どこか”ってどこだよ。だいたい今からじゃどこも人でいっぱいだろ。疲れるだけだっての」少し間をおいた後に、高岡がなにかを思い出したかのように喋りだす。「お前さ、”神隠しの島”って知ってるか?」「神隠し?」「あぁ、地元の人間なら絶対に近づかない、結構大きな無人...
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小説「35歳無職童貞引きこもり男が就職してみた【前編】」
「宏!ご飯ここに置いとくからね」母、千恵子の声が扉越しに聞こえた。宏は電気の消えた暗闇の部屋から少しだけ扉を開けてご飯を部屋の中へと引きずりこんだ。そして扉は静かに閉まり、また沈黙する。暗闇に包まれた部屋の中ではどこからか漂うアンモニア臭とパソコンの起動音だけが空しく響いていた。宏にとってはこの牢獄のような閉ざされた暗闇の部屋が世界の全てだった。ここでしか生きられない。生きようがない。そして誰からも...
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人生初の小説「おばあさんの温もり(前編)」
今日もいつもと何1つ変わらない、変われない一日が始まった。朝起きて、朝飯食って、歯を磨いて、トイレに行って、出勤する。アルバイト先のスーパーに向かって川口は自転車を走らせる。季節は冬、風がひんやりと冷たい。店に到着し着替えが終わり事務所へ行くと店長の姿があった。「おはようございます」「川口君おはよう。品出し頼むぞ」「分かりました」なんとも愛想の欠片もない会話だ。そう思いながらも川口は品出しのため店内へと...
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